安全表記に現れる国民性(2)

今回も前回に引き続き案表記に現れる国民性について話題にしたいと思う。

今回話題にするのはマニュアル内で使われている図記号の説明である。BOSCHのRepair Hintsは特殊な例なので今回は一般的なドラム式洗濯機のマニュアルを比較してみたい。次は某メーカーの電気洗濯機のマニュアルに記載されているものである。

某メーカーとしたのは、別に調べた2社もほぼ同じであったからである。JIS S 0101:2000によれば一般注意図記号と危険、警告及び注意の組み合わせは「危害・損害の程度」を表すために使われるが、このマニュアルでは危害・損害の程度を表すとは説明されていない。「死亡または重傷を負う可能性がある内容を示します」は何を意味するかあいまいな表現である。他の2社も似たような表現を使っている。これはJISにもAEHAのガイドラインにも従っていない表現である。ガイドラインに従えば「誤った取り扱いをしたとき死亡または重傷を負う可能性があることを示します」となる。あるいは「書かれた注意を守らないと死亡または重傷を負う可能性があることを示します」などとすればもっとわかりやすくなるのではないだろうか。

修理マニュアルではユーザーマニュアルと性格が違うので、比較のためにBOSCHのユーザーマニュアルを調べてみた。ドラム洗濯機のUser Manualである。

BOSCH WAW2857XEE User Manualより

危害の程度はWarning(警告)とCaution(注意)なので日本のマニュアルと同じであるが、一般注意記号とシグナルワードの組み合わせはWarningだけであり、Cautionはシグナルワードだけしか使っていない。危害の程度を表すのはシグナルワードなのでこの使いかたでも問題ないのだが、日本のマニュアル制作者は、このように一方には使い、他方には使わないことを好まないのは想像に難くない。

次に、パナソニックのマニュアルとBOSCHのマニュアルの子供の安全に関する注意を比較してみた。国民性の違いがよく現れていると思う。

パナソニックのマニュアル
BOSCHのマニュアル

パナソニックのマニュアルはイラストを使い、わかりやすく子供への危険性を説明している。日本のユーザーには好意的に受け入れられるであろう。マニュアル制作者の工夫がうかがわれる。しかし、BOSCHのマニュアルはイラストなしで味気ない。「必要な注意は網羅しました」という制作姿勢に思われる。製品の使用期間中にドラム内に子供が閉じ込められる危険性だけでなく、廃棄する製品に子供が閉じこめられる危険や洗剤の毒性にまで注意が及んでいる。使わなくなった洗濯機の処分の仕方が日本とドイツでは異なるというのも理由かもしれないが、ここまで書くのは国民性の違いが現れているとも思う。なお、洗剤の安全性は日本や英米では公的機関によって確認されており、洗剤のパッケージなどには必要な注意が書かれている。したがって、日本の洗濯機のマニュアルには書かれていない。BOSCHのマニュアルに洗剤の毒性について書かれている理由は不明であるが、やはり国民性によるのかもしれない。