業界規格とJIS

散歩中にビール工場の裏を通ったとき、生ビールの樽が山のように積まれているのに目を引かれた。

樽を見れば予測できるとおりサントリーのビール工場である。見ているうちにパレットがほぼ他社のものであることに気がついた。拡大したのが以下の写真である。

Asahi、KIRIN、SAPPOROという他の大手ビール製造会社にとどまらず、CALPIS、二階堂、日本盛など清涼飲料の会社や他の種類の酒造会社のものも見られる。当のサントリーのパレットを探すと最初の写真の左の木の陰に樽を乗せずに数枚積まれているのが見つかっただけであった。

ここまで堂々と他社のパレットを使用しているのだから各社間で何らかの申し合わせがあるに違いないと思いパレットについて調べてみた。ヒントになったのはサッポロのパレットの角に書かれた以下の表示であった。

写真ではわかりにくいが「Pパレ共同使用会」と書かれている。早速ググってみると一般社団法人Pパレ共同使用会のWebサイトが見つかった。サイトの記載によれば、会の目的は「加盟社のビール9型プラスチックパレット(略称:Pパレ)の適切な管理と、Pパレの共同利用促進に取り組む」ことである。Pパレ共同使用会の加盟各社が使用しているプラスチックパレットはビール9型プラスチックパレットと呼ばれ、業界規格としてサイズが決められている。(以下参照)

Pパレ共同使用会のWebサイトより

2023年9月現在加盟は128社だそうだ。加盟社一覧を見ると有名な酒造会社がずらり。おそらく日本の酒造会社のほとんどが加盟していると思われる。加盟社はパレットを選別せずに回収・出荷ができるので大きなコストダウンができるわけである。

ここでほかの業界ではパレットサイズがどうなっているかが気になって調べてみた。ビール9型プラスチックパレットと同様の形状をした平パレット呼ばれるパレットにはJIS Z 0601というJIS規格があることが分かった。この規格のパレットサイズは、1100mm×1100mm×144mmである。しかし、インターネットで調べてみるとこれ以外のサイズのパレットも多く使われているようである。冷凍食品業界では1,200mm×1,000mm、化学業界では1,220mm×1,220mmのサイズのものが使われているそうである。

レンタルパレットの業界団体である一般社団法人日本パレット協会のWebサイトを見るとその境界が所有しているのはプラスチック製平パレットが多く、その中でもJIS標準サイズのものが圧倒的に多いことが分かった。やはりJISである。酒造業界は瓶ビールのケースのサイズやビア樽のサイズなどの固有な事情により上記のようなサイズを業界規格としたのであろう。

パレットのサイズのように一般消費者が使用する機会がほとんどないものにおいては、利便性と経済性を優先しても問題がないので業界規格が幅を利かせていると考えられる。

しかし、電子レンジのように一般消費者が使用する製品で、扱いを間違えれば生命にかかわるような製品では、利便性より安全性が優先する。そのような家電製品にはジャンルごとに安全性に関するJIS規格があり、それに従って製造会社は製品を作っている。電子レンジのJISはJIS C 9250であり、温度調節器等が故障した状態で試験し火災のおそれがないことや、使用中に操作する取っ手の表面温度を55℃以下にするなど、安全面を細かく規定している。そして、電子レンジを製造する家電製品の製造会社は、このJISに従って電子レンジを製造している。家電製品の製造会社は他の家電製品であっても該当するJIS安全規格に従って製品を製造している。だから我々は安心して家電製品を使うことができるのである。