安全表記に現れる国民性(1)

前の投稿で取り上げたBOSCHの洗濯機の修理マニュアルを読んでいて安全情報の書き方について感じたことがいくつかある

ドアロックの交換手順は以下のように書かれている。

Bosche Repair Hintsより

まず警告メッセージの書き方が気になった。典型的な日本のマニュアルと比較していただきたい。

BOSCHの警告メッセージ
某日本メーカーの洗濯機の警告メッセージ
別のメーカーの洗濯機の警告メッセージ

危害・損害の程度の表示位置が異なるのである。ここで「危害・損害の程度」といっているのはJIS S0101:2000で使用される表現である。以下にJISとBOSCHの修理マニュアルの定義を示すが、一般注意記号とシグナルワードの組み合わせで危険のレベルを表すことは同じである。

JIS S0101:2000より
BOSCHのRepair Hintsより

BOSCHのマニュアルでは危害・損害の程度を表す図記号が一般注意図記号の下位に配置されている。一方日本のマニュアルではその図記号が見出として使われており、その下位に禁止図記号(及び指示図記号)が配置されている。逆の配置であるところが面白い。禁止図記号、一般注意図記号、指示図記号は警告図記号と呼ばれる図記号グループに分類される(JIS S0101:2000より)。AEHAのガイドラインにはJISの警告図記号の表現がまとめられている。

警告図記号(AEHAガイドラインより)

次に気になったのは説明の記載事項の順序が異なることである。IEC /IEEE82079-1:2019で使われる用語を使用してBOSCHのマニュアルの説明の記載順序を示すと次のようになる。
・潜在的ハザード
・その原因を避けないことによって生ずる結果
・ハザードを回避する方法

一方、日本のマニュアルは以下の記載順序である。
・禁止指示(ハザードを回避する方法でもある)
・その原因を避けないことによって生ずる結果
・ハザードを回避する方法

日本のマニュアルでは潜在的ハザードを明示していない。(見出しに「感電・けが、発煙・発火・火災のおそれ」などと書かれた例は見たことはあるが、それではハザードがどこにあるかわからない。)

上記の例では危害・損害の程度を表す表現を見出しとして使っていることはわかりにくいかもしれないが、一般財団法人 家電製品協会(以下AEHA)が発行する「家電製品の安全確保のための表示に関するガイドライン第5版」の記載を読めば危害・損害の程度を表す図記号が見出しとして使われていることがわかる。

AEHAのガイドラインより

AEHAのガイドラインには危害・損害の程度の高い順にくくると書いてある。BOSCHのRepair Hintsはそのような順序で配置されてはいない。危険 ー 注意 ー 警告 ー 注意 ー 注記 の順である。なぜこの順序であるのか、筆者には理解できない。

筆者は図記号を見出しに使うことはあまりお勧めできない。図記号の使用目的は読者の注意を喚起することである。危害・損害の程度を表す図記号を見出しとして使うと複数のハザードに関する安全情報が1つの見出しの下に集約して記載されることになる。警告の見出しの下にたくさん書かれた安全情報を読むユーザーに危害・損害の程度は意識されるだろうか。筆者がユーザーの場合、見出し注意を向けずに安全情報を読むので、きっと、危害・損害の程度は意識しないであろう。BOSCHのマニュアルでは1つの注意事項を読むたびに危害・損害の程度を意識させられるだろう。

このような表現の違いはどこから生じるのであろうか。筆者の個人的な意見でしかないが、国民性の違いのような気がする。日本の取説関係者には箇条書きが好きな人が多いような気がする。箇条書きが分かりやすいと考えているのだろう。見出しで注意をまとめるのも箇条書きと同じ発想によるものと思う。