USB Type-Cと無線機器指令

今年の春から夏にかけてiPhoneがUSB Type-Cレセプタクルを採用するかどうかが話題になった。結局iPhone 14はUSB Type-Cレセプタクルを採用しなかった。もし採用していたら今使っているiPhone 12を買い換えていたはずである。手持ちのポータブル機器のほとんどがすでにUSB Type-Cレセプタクルを装備しており、iPhoneがそれを装備すればノートPCとiPad miniとiPhoneはすべてノートPCの充電器で充電可能になり、複数のケーブルを持ち歩かなくてもよくなると考えたからであった。

なぜiPhone 14にUSB Type-Cレセプタクルが採用されるかもしれないと期待されたのか。理由は昨年の秋にさかのぼる。欧州委員会が2021年9月23日に、スマートフォンなどの携帯用電子機器の充電関連規格を統一する無線機器指令(2014/53/EU)の改正案を発表したからである。これによればUSB Type-CとUSB PDが統一規格になるとのことであった。無線機器指令が改正されればAppleも欧州で販売する製品に治してはそれを守らなければならないのでiPhone 14からUSB Type-Cレセプタクルが採用されると期待されたのである。しかし、欧州議会の動きが遅かったので、部品調達の関係などでAppleは秋発売のiPhoneの充電用レセプタクルをlightningのままにしたのであろう。iPhoneにおけるUSB Type-Cの採用は2023年発売の製品からになるようである。

さて、ここにきて欧州で無線機器指令に関連する動きがあった。2022年10月4日に、欧州議会で無線機器指令の電子機器用共通充電器に関する提案が立法決議された。以下、決議内容の中で重要と思われる部分を紹介しよう。

改正案で私が注目するのは第3条が変更され第3a条が追加されたことだ。第3条の改正で附属書Iaが追加され、そこで適用される無線機器が規定された。また、使用する充電装置はUSB PDに準拠しなければならないことも規定された。附属書Iaは以下のとおりである。

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付属書 Ia
特定のカテゴリ又はクラスの無線機器に適用される
充電に関する仕様及び情報
第Ⅰ部
充電能力に関する仕様

1. 本編の第2項及び第3項に規定する要件は,次の無線機器のカテゴリ又はクラスに適用されるものとする。

  • 1.1. 携帯型携帯電話機(handheld mobile phones)
  • 1.2. タブレット端末(tablets)
  • 1.3. デジタルカメラ(digital cameras)
  • 1.4. ヘッドホン(headphones)
  • 1.5. ヘッドセット(headsets)
  • 1.6. 携帯型ビデオゲームコンソール(handheld videogame consoles)
  • 1.7. ポータブルスピーカー(portable speakers)
  • 1.8. 電子書籍端末(e-readers)
  • 1.9. キーボード(keyboards)
  • 1.10. マウス(mice)
  • 1.11. ポータブルナビゲーションシステム(portable navigation systems)
  • 1.12. イヤホン(earbuds)
  • 1.13. ノートパソコン(laptops)

2. 有線充電による充電が可能な限りにおいて、本編1項で言及された無線機器のカテゴリ又はクラスは、以下のとおりとする。

2.1. EN IEC 62680-1-3:2021「データ及び電力用ユニバーサルシリアルバスインターフェース – パート1-3:共通コンポーネント-USB Type-C® ケーブル及びコネクタ仕様」に記載された USB Type-C レセプタクルを装備し、そのレセプタクルには常にアクセスでき動作可能でなければな らないこと。

2.2. EN IEC 62680-1-3:2021「データ及び電力用ユニバーサルシリアルバスインターフェース – パート 1-3:共通コンポーネント-USB Type-C® ケーブルとコネクタ仕様」に準拠したケーブルで充電可能であること。

3. 5Vを超える電圧、3Aを超える電流又は15Wを超える電力による有線充電が可能である限り、本編1項で言及された無線機器のカテゴリ又はクラスは、以下の通りであること。

3.1. EN IEC 62680-1-2:2021「データ及び電力用ユニバーサルシリアルバスインターフェース – パート1-2 共通部品 – USB Power Delivery 仕様」に記載されるUSB PD技術を組み込んでいること。

3.2. 追加充電プロトコルは、使用される充電装置に関係なく、3.1.で言及される USB Power Delivery の完全な機能性を可能にすることを確保すること。

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追加された第3a条では無線機器の販売時に充電器付きと充電器なしのオプションがユーザーに提供されなければならないことが規定された。すなわちユーザーは購入時に充電器付きか充電器なしを選べるようになるということである。また、充電器が付属しているかどうかを次のピクトグラムでパッケージなどに表示することが事業者に対して義務付けられた。

充電器付属する場合のピクトグラム
充電器付属しない場合のピクトグラム
  • ピクトグラムは、視認性と可読性を維持する限り、その外観(例:色、立体か中空か、線の太さなど)を変えてもよい。ピクトグラムが縮小または拡大された場合、本編1項の図面に記載された比率を維持すること。本編第 1 項でいう a の寸法は、変形にかかわらず 7mm 以上でなければならない。

また、USB PD準拠を示すために、取扱説明書と包装材に次のラベルを印刷または貼付しなければならないと規定された。

USB PDのラベル
  • XX “の文字は、無線機器が充電するために必要な最小電力に対応する数字に置き換えられ、充電装置が無線機器を充電するために供給する必要がある最小の電力を決定するものとする。YY “の文字は、無線機器が最大充電速度を達成するために必要な最大電力に対応する数字に置き換えられ、その最大充電速度を達成するために充電装置が最低限供給する必要がある電力を決定するものとする。無線機器が充電通信プロトコルに対応している場合は、”USB PD” (USB Power Delivery)の略語を表示すること。”USB PD” は、電池寿命を短くすることなく、充電装置から無線機器へ最速の電流供給を交渉するプロトコルである。
  • ラベルは、視認性と可読性を維持する限り、外観(例:色、立体または中空、線の太さなど)を変えてもよい。ラベルが縮小または拡大された場合、本編 1 項の図面に記載された比率を維持するものとする。本編第 1 項で言及する寸法「a」は、変動にかかわらず 7mm 以上でなければならない’ 。

対象製品を製造しているメーカーにはやらなければならないことが増えるが、ユーザーには親切な指令と言えよう。