テレビを見ていたらNITEの広報映像が目に入った。最近ハンディファン(携帯用扇風機)の発火事故が増えているので注意を促すためらしい。使用中に爆発することもあるらしい。
ユーザーが普通に使っているだけで爆発するのであれば欠陥商品であり、リコール必至である。しかし、そうではない。ユーザーの誤使用が原因なのである。ハンディファンは移動中に使うものであり、スマートフォン同様落としやすい。落下の衝撃によってリチウムイオンバッテリーが破損し、爆発事故に至るようである。
取扱説明書には取扱の注意が書いてあるはずである。それをユーザーが守らないということであろうか。そこで、ハンディファンのトリセツのリチウムイオン充電池に関する安全表記を調べてみた。
異常・故障時の例に本体を落とした時の症状に該当しそうなものは見つからなかった。「本体に衝撃を与えない」と書かれていても、落としたことが本体に衝撃を与えたことになると思わないユーザーはかなりいそうである。したがってユーザーは警告を読んだとしても落とした後で使用は中止しないかもしれない。スマホを落としても使い続けるユーザーをかなり目にしている筆者としては、このようなユーザー行動は容易に予見可能である。
それでは、もしユーザーが本体に衝撃を与えたと認識したとして、ユーザーはどうすればよいのであろうか。それが書かれていない。
「リチウムイオン充電池の取扱について」が最後に記載されているのは電池工業会の推奨に従っていると思われる。しかし、「危険」レベルの注意なのに、安全表記の最後に記載されている。
外側の破損については見ればわかるが、故障については疑問である。スイッチ入れて動かなければユーザーは故障だと判断するが、落とした後でスイッチを入れて動いた場合故障だとは思はない。ところが電池内部が落とした衝撃で破損した場合、当初動きはするが、そのうちに爆発するかもしれない。この文章ではユーザーにはそれを予測できない。「注意」に書かれているのは使用できなくなる可能性だけである。
この「危険」の表記では、B社の安全表記同様、落としたことは意図したことではないので、ユーザーは強い衝撃を与えたとは考えないかもしれない。さらに「警告」では爆発の可能性を言っていない。「警告」には、お買い上げの販売店に点検・修理をご相談くださいと書いてあるが、ネット通販やフリマで買った製品ではそれが難しい場合もありそうである。
3社に共通しているのは、爆発(破裂)の危険性のあると判断したユーザーがどうすればよいかを書いてないことである。3社だけではない、今まで読んだリチウムイオン電池を使う製品のトリセツに、異常を発見した場合、製品の取り扱いを中止して、その後どうすればよいかが書いてあったのを読んだ記憶はない。電池工業会のWebサイトを見ても製品の使用を中止してくださいとしか書かれていない。使い続けると爆発の恐れがあると書いてあるものをユーザーは持っていたくないはずである。しかしその後にとるべき行動を指示する安全表記は見たことがない。NITEのWebサイトには「もしも、強い衝撃を与えてしまった場合は、使用を中止して、製造・輸入事業者や販売元の修理窓口に相談してください。」と書かれている。連絡が取れるまでには時間がかかるがその間、電池をどこへ、どのように処置して保管しておけばいいのだ。
異常や故障の具体的な説明が不足しているのも一般のトリセツに見られる傾向である。どんな状態が異常でどんな状態が正常なのかの判断基準がユーザーには与えられないことが多い。ユーザーが判断できない注意や警告は役に立たないのである。
リチウムイオン電池に関する安全表記に関しては業界、政府レベルの対応が必要なのではないかと筆者は思う。