日本語版右段の「警告表示」という用語には少し違和感を覚えます。説明文中で示される複数の表示の中に「警告」と書かれた表示が1個含まれています。警告表示と書くとこの1個の表示だけを差すと解釈されてもおかしくありません。なぜ特定の表示を意味する「警告表示」が見出しに使われているのでしょうか。警告表示とは何でしょうか。IEC/IEEE 82079-1:2019およびANSI Z535.6-2011(R2017)ではこの用語は定義されていません。他社のマニュアルでは「表示の意味」のように意味を限定しない一般的な用語を使っています。本マニュアルでも本文中では単に「表示」とだけ書いています。見出しは「表示の意味」だけにしたほうが誤解されないと思います。
色々調べた結果、一般財団法人家電製品協会が発行する「家電製品の安全確保のための表示に関するガイドライン 第5版」に「警告表示」の定義を見つけました。以下のとおりです。
警告表示:
人身への危害と財産への損害を未然に防ぐことを目的とした安全確保および製品の安全性維持のための表示。
私にはこの定義が良く理解できません。「~を目的とした」と「~のための」は同じような意味ではないでしょうか。前半で言っている「人身への危害と財産への損害を未然に防ぐことを目的とした」は理解できます。
後半が良く分かりません。「安全確保は「何」の安全を確保することでしょう。人身の安全確保といいたいのなら前半の「人身への危害を防ぐ」で既に言っているので意味が重複してしまいます。「製品の安全性維持」とはどういうことでしょう。製品が安全設計のもとに製造されたものであることを前提に、その製品が持つ安全性を維持するための表示では意味が通じません。表示によって製品が持つ安全性が維持できるとは思えないからです。製品の安全を維持するためであればこれも前半と重複しますが、「製品の安全性」が製品自体の安全を意味するとは私には解釈できません。
いずれにせよ「警告」という用語が使われる意味は分かりません。この定義であれば「安全表示」が適切だと思います。実はガイドラインにはもう一つ疑問に思う定義があります。次の警告図記号です。
警告図記号:
消費者に禁止、注意、指示事項の情報を与えることを意図した図記号。
ここでは、JIS S 0101:2000、家製協およびその他の団体が定める禁止図記号7種、注意図記号9種、指示図記号3種の総称をいう。
最初の文はJIS S0101:2000では「消費者用警告図記号(graphical warning symbols for consumers )」の定義です。この規格内で使用する用語の定義を拡大解釈して「消費者用」を取った一般用語として定義しているのです。
本ガイドラインに示された図記号のうちかなりのものがISO 7010に登録されています。そのISO 7010ではこれらの図記号をsafety sign(安全標識)と呼んでいます。人間の安全を守ることを目的とした図記号なので一般名称としては「安全」を使うのが自然だと思うのですが、JISやこのガイドラインでは警告を使っています。国民性の違いでしょうか。個人的には「安全」を使ったほうが良いと思います。
symbolとsignの違いは私自身が混乱しているので議論しません。表示が何を意味するかも私にはわかりません。