4波長で効率的脱毛?

電車の中吊り広告に以下のような広告を見つけた。

これは何を読者に伝えようとしているのだろうか。まず見出しの「4波長」のが何の波長なのか分からない。イラストを見ると毛の長さと波長を表す矢印の長さがほぼ同じである。毛根部分だからミリ単位であろう。ミリ単位の波長を使う装置は無線装置である。1mmの波長の周波数は300GHzである。現時点でその周波数帯の無線装置は実用化実験の段階である。医療目的で使われるはずがない。しかし、イラストをよく見ると700nm、755nm、810nm、1044nmという波長が表示されている。この波長の領域は、赤色光から近赤外領域の光の領域である。どうやらレーザー光を使った脱毛の広告だという結論にようやくたどり着いた。美容脱毛に興味のある読者にはレーザーを脱毛に使うことは周知のことなのかもしれないが、この広告にはレーザーとは一言も書かれていないので、興味のある読者にもレーザー脱毛の広告だということが伝わらないのではなかろうか。トリセツの専門家としてはツッコミどころ満載だと感じる。

この広告のイラストと説明からは、毛根の深さによって波長を使い分けているかのように思われる。しかし、毛根の深さを治療中に順次判断できるとは思えないし、レーザーの波長を毛根の深さや大きさに応じて自動的に変えるなど不可能である。この広告は何を言いたいのか見当がつかない。

筆者はレーザー脱毛について調べてみた。レーザー脱毛については山手皮フ科クリニックが詳しい情報を以下のWebサイトに掲載しているので興味のある方はそれを読まれたい。

https://www.yamate-clinic.com/iryou_datumou/machine.html

ここではそのイラストと内容の一部を引用させていただく。レーザー脱毛というのはレーザー光を皮膚に当てて、毛のメラニンを高温にし、下図のバルジと毛球部を熱破壊する脱毛法だという。

山手皮フ科クリニック 制作のイラスト

脱毛に使われるレーザーは、単発照射式と蓄熱式の2種類がある。単発照射式は波長が755nm(アレキサンドライトレーザー)のものが一般的で、波長1064nm( Nd:YAGレーザー )のものも使われている。毛1本ごとにレーザー光を照射するが、照射時間が短く一瞬で毛を燃焼させ、その熱で毛根を熱破壊する。蓄熱式はダイオードレーザーを使った波長810nm+940nmの製品が使われている。相対的に長い時間皮膚のある程度広い範囲に照射し、同時に範囲内全部の毛に熱を蓄積して多数の毛根を同時に熱破壊する。考え方によっては蓄熱式は2波長で効率的と言える。

レーザー光の波長が短いほどメラニンへの熱吸収度が高く効率的だが、到達深度が浅くなる。したがって単発照射式を使う場合、通常はアレキサンドライトレーザーを使い、毛根の深い人には波長の長いNd:YAGレーザーを使うという使い分けが行われている。中吊り広告の波長が描かれた矢印は到達深度を表していたのだ。このイラストは到達深度を比較するためだけに使われるべきで、効率を比較するのに使うべきではない。波長の使い分けと単発照射式と蓄熱式の使い分けという異なるカテゴリーのことを、中吊り広告はゴッチャにしているのである。方式の異なるものが含まれる4波長だから、比較することに意味はなく、4波長あるから効率的とは言えない。製作者の無理解によるもので、意図的ではないのかもしれないが、読者を誤誘導しかねない広告だ。