誰のため?

昼食を食べに出かけたとき信号のある横断歩道で次のような表示を見つけた。ここは片側2車線の道路にある横断歩道で、夜間にはボタンを押さないと歩行者信号は青にならない。

横断歩道の表示

他所にもないかと気になって大きな交差点を調べると似たような表示が見つかった。ここは夜間でも歩行者用信号は自動で青になる。

大きな交差点の表示

これらの表示は日本語、英語、中国語(簡体字)、韓国語(ハングル)で書かれた説明の下にISO 639の言語コードが11か国語分書かれている。その左にQRコードのようなものが描かれている。試しにiPhoneのQRコードリーダーをかざしてみるが認識しない。信号が青になったのでとりあえず写真に取って道路を横断してしまった。

後日、ネットを調べてみると「東京五輪に向け、外国人が安全に道路を横断できるよう、警視庁交通管制課が、15言語に対応する押しボタン式信号機の表示板を製作した」「表示板には「歩行者用押ボタン」という従来の表記に加え、ボタンを押して信号が青に変わるまで待つよう促す内容を、英語や中国語、韓国語で記載。表示板上のコードを専用アプリ「Uni-Voice」で読み取れば、フランス語やドイツ語など計11言語の音声で表記を読み上げる。iPhone(アイフォーン)用は「App Store」で、アンドロイド対応のスマートフォン向けは「Google Play」で、アプリを無料ダウンロードできる。 20年までに五輪の競技会場や宿泊施設などに計約3500枚の表示板を順次設置する。」という記事をネット上の産経ニュースで見つけた。

Uni-Voiceは特定非営利活動法人日本視覚障がい情報普及支援協会が開発した音声コードで、これを読むにはAndroidまたはiPhone用の専用アプリをダウンロードしなければならない。

ここで問題なのはオリンピックで来日する外国人にはアプリをダウンロードしなければならないことを知るすべがないことである。QRコードみたいだがスマホをかざしても読めない。それで終わりである。UVは日本独自のコードなので、せっかく11か国語も用意した音声データは無駄としか言いようがない。ただし、日本に来る外国人はほぼ簡単な英語くらいは読めると思うので上の表示が無駄というわけではない。

ここまで書いたことは同じように考えた人が書いた情報をネット上に見つけることができた。ここから先が私のこだわりである。

11の言語コードの最初はZHOである。これは中国語を表す。しかし、中国語(簡体字)の説明は上に書かれているのである。となるとこれは繁体字かもしれないと思い、アプリをダウンロードして調べてみた。

Uni-Voiceアプリの画面

当たりであった。ここにある文は、表示の表現より詳しいが、音声で読み上げる説明だからであろう。(フランス語が最上部にあるのはアプリの設定によるので気にしないでほしい。ただし、この設定だとフランス語でしか読み上げてくれない。)しかし、Uni-Voiceは音声を聞かせるために開発されたコードであり、アプリで表示される文字を読ませるものではないので、これを読むのは目的外使用と言えそうである。でも、なぜ中国語だけは表示と音声の手厚いサービスなのであろうか?

さて問題はここからである。夜間歩行者用の表示は読んだ人自身のための表示である。では、音響用押ボタンの表示は誰のためのものなのか。音響自体は信号が見えない人に音響で信号が青であることを知らせるためのものである。信号が見えない人はボタンも表示も見えない。信号が見えない人のためにボタンを押すのは誰であろうか。付き添いの人であれば音響はいらない。付き添いの人が信号が見えない人を直接誘導するからである。しかし、一人で交差点を渡ろうとする信号が見えない人の存在を第3者が離れた位置から簡単に認知できるものであろうか。スマホにUVアプリを入れた外国人がこの表示に気が付いて説明を聞きボタンを押すころには信号が見えない歩行者は横断歩道を渡ってしまっているのではないだろうか。杖や振る舞いで信号が見えない人だと判断できる場合、ほとんどの人は直接その人に声をかけて、ひじなどを使って誘導するであろう。声をかけてボタンのある場所まで移動し、ボタンを押して、はいさようならはまずありえない。誘導するなら音響はいらない。

どうしても音響を使いたいなら、歩行者信号が青の間は自動的に音を流せばいいのである。その場合ボタンはいらない。この表示も必要ない。常に音が流れるのはうるさいというクレームが警視庁に入ったのであろうか。大きな交差点であれば、指向性の強いスピーカーで横断歩道内をカバーするだけにすれば自動で音を流してもクレームは来ないと思う。なぜ音響用押ボタンを設置したのか、私には理解できない。